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神々の山嶺

「登山家マロリーがエベレスト初登頂を成し遂げたかもしれない」といういまだ未解決の謎。その謎が解明されれば歴史が変わることになる。カメラマンの深町誠はネパールで、何年も前に消息を絶った孤高のクライマー・羽生丈二が、マロリーの遺品と思われるカメラを手に去っていく姿を目撃。深町は、羽生を見つけ出しマロリーの謎を突き止めようと、羽生の人生の軌跡を追い始める。やがて二人の運命は交差し、不可能とされる冬季エベレスト南西壁無酸素単独登頂に挑むこととなる。

夢枕獏の原作小説が谷口ジローにより漫画家され、更にコミックがフランスでこの度アニメーション映画に……という感じの作品らしい、谷口ジロー版の漫画は昨年購入、読んでいたが映画は時期がズレて見にいけなかった。

90分しか尺がないので爆速RTA構成になっていて、深町の抱える背景や、経済的困窮からチャンスを逃し、世界の山で活躍するライバル長谷を横目に日本でもがく羽生の過去…といったものはバッサリめにカットされている。

面白いのは羽生のパートナー・岸文太郎の、妹・岸涼子が母親に改変される事により、羽生と岸涼子の交際の過去、深町と惹かれあっていく描写をカットする物凄い剛腕ぶり。思わず感心してしまった。 

 

ドラマはカットされ大分薄れてしまったが、冬の雪山の美しさ、恐ろしさが全面に押し出されていて、日の出ている時間は雪が光を反射して痛いくらいに視界が明るい事や、実際の崖を登っている時の動作、引きの絵で雪に覆われた岩壁をよじ登る鮮やかで目につくダウンウェア、と絵作りは魅力的で山という圧倒的なスケールを見事に描き出した傑作だと思った。

落下の衝撃で腰も怪我をして動けなくなった岸文太郎の絶望した顔からカメラを一気に引いて断崖絶壁で宙吊りになっているちっぽけな彼の姿を全景で映すシーンの絶望感が1番印象に残る演出だった。

 

日本の昭和期を良く再現した街中の背景美術、居酒屋の空間レイアウト、小物など凝ったディティールの中に出てくるヘンテコな日本語も必見。