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雑感

Twitterの騒動に触発されてあれこれとSNSアカウントを用意してみたが、結局はTwitterのヘビーユーズは変化なさそう。

新しく始まったthreadsはTwitterに近い作りであるが急造という感じで、TLは自分で選べず、フォローしてる人が企業や業者に埋もれてしまっている。

使いやすくアップデートしていって欲しい。

 

・岩倉玲音さんのあれ何。

にゃるら氏の事は割と好きで、彼の読んだ本に関する感想が見たくてnoteなども定期的に目を通しているが、あまりニディガに関しては好意的に見ることができていない。

メンヘラやオーバードーズをエモの文脈でキャッチーに消費するのは危ないなと思ってしまうし(これはUSラップシーンの中での1ジャンルにおけるエモラップの興隆と、風邪薬など簡単に入手できる薬物への依存に苦しみながら、オーバードーズによって次々とラッパーが亡くなっていく中での衰退を目にした以上、強く強く思ってしまう)、引用元の文脈が抜け落ちたパロディが苦手だ。一方で彼の創作性はともかく、プロデュース力やクリエイターを巻き込んでいくキュレーターとしての才覚は非常に優れていると感じる、あまり好きな創作性ではない部分に好きなクリエイター達が取り込まれていく事を好ましく見る事はやはり、難しいけれど。

今回は作品のイメージすら逸脱していて本当に嫌な気持ちになった。

 

読んだ

あなたに死なないでほしい。
家父長制、資本主義、天皇制に抗して、あらゆる生存のためになにができるのか、なにが言えるのか。金子文子やデヴィッド・グレーバーを参照軸に、アナーカ・フェミニストの立場からこのくにの歪みを抉り出す、ライター高島鈴の初エッセイ集。脈打つ言葉は、きっと誰かの心臓と共鳴する。

国家・家父長制・異性愛規範・資本主義をはじめとするあらゆる権力・差別・中心主義を批判・破壊・拒絶する事を明言した序文から始まり、著者は絶え間なくこの社会に蔓延る人々を苦しめる価値観や権力に疑義の目を向け続けながら「あなたに生きていて欲しい」と訴えている。具体的に抵抗を行動として起こす事が出来なくても、布団に這いつくばっていても、生き延びる事そのものが抵抗であると力強く呼びかけている。

しかし著者自身が「アジビラである」と言ってしまうくらいの力強さ溢れる序盤の文章は、読み進めていくと、どんどん著者個人の葛藤や躊躇も含まれていく、頻繁に追記が差し込まれるように、著者自身がリアルタイムで思索を続け書き連ねていく(しかし追記に留め、過去その時に考えて描いた文章を削除や修正する事はない)

純粋で正直で、フェアな態度を貫こうとするその在り方、著者自身も理想に向けて戦い続けている様子が痛ましいほど文面から伝わってくる。

また、映画や音楽などのコンテンツ批評も充実していて面白い。

特にルッキズム問題を取り上げる中での音楽批評や、映画「テルマ&ルイーズ」のコラムが好き。

著者の考えのその全てに同意できなくても、その真剣さには胸打たれるものがあるはず。

 

著者は30代の男子校教師。
フェミニズムの波は普遍的人権を保障してきた歴史の流れに乗っている、世界は変わりつつあるとし、その上で男性たちに自分を振り返り、フェミニズムを学ぼうと呼びかける。
その波に乗る韓国社会を分析し、「なぜ(男が)フェミニズムを学ぶのか」を小学生にも分かるように綴っていく。
韓国で反響を呼び、ここにめでたく翻訳版も出版された。
学ぶのも、フェミニストになるのも、遅すぎることもないし恥ずかしいことでもなんでもない。
31冊のブックガイドも収録。

 

21歳の時だった、大学内のフェミニズム研究会で学んでいた後輩男子に尋ねた。

「男なのに何のためにフェミニズムの勉強をしているの?」

私(著者)の質問ににっこり笑いながら答えた彼の表情、声、まわりの風景がいまでも鮮明に蘇る。衝撃的だった。

「男だからよく分からないんです、学ばないと」

まずこの序文の著者がフェミニズムを学ぶきっかけとなった出来事の描写に惹きつけられて本書を手に取った。

著者のフェミニズム観は自ら育ってきた家庭での母や祖母の人生を振り返る中での後悔や贖罪意識から出発する。

韓国社会における家庭の在り方とジェンダーギャップなどを自身の経験を振り返りながら炙り出し、自分を含めた男性自身にできる事を取り上げている。

巻末のブックガイドはとても参考になるし読みたいものも多いが、未邦訳も多くて残念。

 

見た

アトランタ S1&S2-略奪の季節

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カネ無し、夢無し、行く当て無し。親に愛想を尽かされ、元カノの家で居候する始末なダメ男アーン。薄給の仕事で何とか食いつなぎ、その日暮らしな生活を送っていた彼が目にしたのは、従兄弟のアルフレッドがラッパー“ペーパー・ボーイ”としてその名を轟かせようとしている姿だった。アルフレッドの姿に希望を見出したアーンは、マネージャーとしてアルフレッドの片腕、そして (家賃を払える) 一人前の男となることを決意する

「This Is America」のMVで話題になったヒップホップアーティスト、チャイルディッシュ・ガンビーノこと俳優ドナルド・グローヴァーと、そのMVも監督したヒロ・ムライのコンビが手がけるテレビドラマシリーズ。

主人公アーンと従兄弟のラッパー・ペーパーボーイ、その親友・ダリウスの3人が、音楽業界での悲喜交々を体験しながらのし上がっていく、なんて事は全くなく、彼らを中心にした地元・アトランタでの日常を描いた不条理コメディ。

とにかく風刺が多く、コレって笑っていいのか?という奇妙な空気が全体の空気を覆いながら笑ってしまう。感覚としては連続モノの「世にも奇妙な物語

例えば、アーンは繊細で気弱な男なのだが、彼がペーパーボーイのマネージャー業でまとまったお金を手にした時、行く場所全てで100ドル紙幣を偽札と疑われ使えなかったり、映画館でデビットカードを使おうとすると同時に身分IDの提示を求められる、しかし彼の次に並んだ白人の男性には提示を求められず、男性に話しかけると男性は腰に差した拳銃をチラつかせる。結局、黒人コミュニティのストリップクラブで管を撒きながら出来事の一部始終を仲間に話すとペーパーボーイから「堂々とした態度を取れないお前は売人に見えないから偽札と思われる、お前が100ドル札を使えないのはお前に貫禄がないからだ」と言われてしまう、黒人が向けられるステレオタイプを黒人が肯定、内面化し、差別に怒るのではなくアーン自身に問題があると説教する。

そういった風刺を不条理コメディとして描いてくるバランスが凄い。

こういった不条理はペーパーボーイにも向けられる。

彼は1話の冒頭で駐車場でのトラブルから拳銃を意図せず暴発させ人を撃ってしまう。

それが地元で有名になり''サグでリアルなラッパー''として持て囃される、行ったチキン屋では店員から絶賛、サービスされ上機嫌になったかと思いきや脅しをかけられ微妙な空気になる。

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ペーパーボーイは短気だが良識も持っていて、真面目な男なのだが、事件によって付いた彼のラッパーとして持たれるイメージと本人の乖離による不条理が面白い。(ペーパーボーイが一番常識人という異常な作劇になっていて、彼が振り回される回、インフルエンサーとのしょうもないSNSでのバトル、散髪屋に行けばなぜかたらい回しにされて犯罪の片棒を背負わされるなど、抜群に面白い)

このように次々と「これ笑っていいの?」みたいな困惑が襲ってくるドラマ、エピソードごとに作風もリアリティラインもぐちゃぐちゃで、ジャスティン・ビーバーが登場するもなぜか黒人俳優だったり、透明な車だって出現する。

 

際立って奇妙なエピソードはS1のEP7。

7話「人種転換」は、モンタギューという討論番組にゲスト出演したペーパーボーイ、テーマは人種・セクシャリティ。完全に1話まるまるモンタギューの放送という形のエピソードでCMまで挟まっている。

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白人の社会学者と司会者とペーパーボーイ。社会学者は、ヒップホップの歌詞やラッパーの姿勢について批判。それに反論するペーパーボーイという構図、社会学者はペーパーボーイのSNSでのトランス差別発言に「あなたの発言の背景にはこういった社会背景がある」と何倍も先回りした結論ありきで話し、ペーパーボーイは何言ってんだコイツ?と困惑する。

議論は平行線のまま、悩める若者の特集として、ハリソンという黒人の少年が登場する、ハリソンの本名はアントワンで、彼は自身の心は35歳の白人であると主張する。

''昔から疑問に思ってた

なぜ僕は周りに軽く扱われる?''

''ある日気づいた、白人で、35歳だと''

ハリソンの母はこう語る。

''白人と思うわけない、私がリアーナじゃないように、息子も白人じゃないわ''

ハリソンは母を「人種に囚われ過ぎている」と語る一方で、白人男性として振る舞うイメトレとして茶色のベルトを履きこなし「昨日のゲームオブ・スローンズ見た?」と会話のシュミレーションをする。

挟まってくるコマーシャルも隠喩と奇妙さは加速し続け、皆が絶賛しながら何故か中身は捨ててるタバコのCM、ガビガビな画質と合成背景の映像で語りかける陰謀論インフルエンサー、子供からシリアルを盗もうとしたオオカミを警官がボコボコにしてそれを見て子供達がドン引きするシリアルのアニメ調CM。

そしてコマーシャル開け、ハリソンは金髪のカツラを被って登場する。

 

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それを見たペーパーボーイは大爆笑。

アイデンティティは白人として立脚している彼は「黒人は人種の多様性を受け入れないものだ」と述べる。

社会学者はハリソンに「性的少数派に対するラッパーの態度を見ると、黒人が少数派を嫌ってることが分かる、それはあなたにも問題でしょ?」と質問。

すると、ハリソンのアイデンティティはあくまで保守的な中年の白人であるため

「男が女になりたいなんて不自然だ 子供たちにも悪いことだと教えないと」

「僕は同性婚に反対だ! 生理的に受け付けない 結婚は男女が行うモノだ 同性婚はいけない」

と自らをマイノリティと主張してたハリソンは一転して差別的なマジョリティとして振る舞い他の少数派を攻撃し始める。

社会学者と司会は目を剥きペーパーボーイはイカれてるぜ!と大爆笑、完全に番組が破綻してエピソードは終える。

このように、反応に困るエピソードの数々が繰り広げられる奇妙なドラマ・アトランタ

本当に反応に困ってしまうよ。何だコレ。

 

ヒップホップ・カルチャーを描いているドラマとして、実際に多くのラップの楽曲が流れてくる。

中でも好きなのはシーズン1のラストでアーンが住んでいる貸し倉庫に帰っていくシーンで流れるアトランタを代表するラップデュオ・アウトキャストのElevatorsが流れるシーン。

「俺たち音楽業界でのしあがってるはずなのに金が全然ねえぞ?おかしくね?」という歌詞と陰鬱でダウナーなビートと共にレンタル倉庫で寝泊まりする金無しのアーンの映像はバッチリハマっててかなりイカしている。